気候変動サミット開幕、2030年目標を表明
脱炭素に向けて各国が打ち出す新たな温室効果ガスの排出目標や、首脳の発言に注目が集まっている米国主催の気候変動に関する首脳会議(サミット)が22日開幕した。
冒頭、米国のバイデン大統領は自国の温室効果ガスの排出量を2030年までに2005年比の50%から52%削減する新たな目標を表明し、各国にさらなる行動を求めた。その後、日本からは、菅総理大臣が2030年に向けた削減目標について、2013年度と比べて46%削減することを目指すと表明。「さらに、50%の高みに向け、調整を続ける」と意欲を示した。
また、11月に自国で第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の開催を予定している英国のジョンソン首相は35年に90年比78%減の目標を掲げる。EUは20年末、90年比55%以上減らす計画を掲げている。
▮国際協力関係
安全保障の問題をめぐる対立から注目の集まる米中関係は、両国がともに重視する気候変動対策では協力して取り組む姿勢を国際社会に示している。また、岸防衛大臣は気候変動サミットの「気候安全保障セッション」でスピーチを行い、「気候変動による海面の上昇は、陸地を減少させ、領土や資源をめぐる争いを活発化させ、地域全体が不安定化して、わが国の安全保障にも影響が及ぶおそれがある」と懸念を示している。
このように、各国は自国の安全保障の安定化を図る意味でも、引き続き協力を行っていく姿勢であるといえる。
そして、今回の気候変動サミットでは、各国は新たな削減目標を国際連合に提出し、11月に英国で開催される国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)で進捗状況を点検することが想定されている。加えて、COP26に向けて環境規制が緩い国からの輸入に対して、化石燃料などから排出される二酸化炭素(CO2)の重量に応じて課税する、「国境炭素税」など脱炭素に向けた国際協調も協議するとみられる。
この「国境炭素税」は、EUの成長戦略「欧州グリーンディール」の政策の一つであり、輸入品に対してその製造に伴うCO2排出量に見合う炭素税(関税)を輸入時点で賦課したり、輸出時に炭素税を減免したりすることである。一見すると脱炭素社会への一歩ともなるが、対策に遅れを取れば国際競争力を失う可能性は非常に高い。日本の製造業へも壊滅的な打撃を与えうることから、日本企業は今後も政府の動きを注視する必要がある。
▮日本の削減目標達成への課題
世界の排出量を部門別でみると、「発電・熱供給」部門の排出が4割以上を占めていることから、CO₂排出量の少ない再生可能エネルギーを増やし、石炭火力を減らす必要がある。しかしながら、日本は世界と比較して再エネコストが高いという課題があり、今後の再エネ普及を目指すうえでは、このコスト問題は避けることはできない。
現状、再エネの構成のうち最も比率の高い太陽光発電では、今後FITの終了に際し発電施設建設数は過去ほど大幅な増加は難しいと考えられる。新たにFIPや非FIT発電所の発電所の建設を後押しするうえで、政府はいかに発電コストを下げられるかがこの問題の焦点だ。また、太陽光発電においては立地問題や市場構造の見直しも必要不可欠である。
この他、再エネ電源の中でも世界的に体制が整いつつある洋上風力発電の取り組みも、日本は世界と比較して遅れをとっているのが現状だ。
また、次に排出量の多い「運輸」部門でも、運輸手段の一つとして電気自動車(EV)への移行が世界的に求められているが、EV・電気自動車で世界最大シェアを誇る中国に続き、クリーンエネルギーに対する最新技術産業をどこまで拡大することができるか。過去、世界の自動車業界を牽引してきた日本の底力が試される。
果たして日本政府は、これらの問題をどのように処理し、46%の削減目標に向け取り組んでいくのか、日本企業はどういった役割を果たすべきか、今後も世界の動向を注視し検討していく必要がある。